Cameratchi News Vol 4 photo photo photo photo
2006・1・ 5 記載
Seiya Yamauchi

カモシカの道

 いつもカモシカに出会う場所があった。おそらく近くに彼らの住居があるのだろう。山の中では時に撮影適地を求めて登山道や林道をはずれ、尾根や沢筋を歩く。そこはたいがい、けもの道になっている。ちょっと開けた所で一休みすると、その先の岩の上でこちらをじっと見つめている気配。カモシカだ。体毛がそのあたりの岩の色に似ているのはいわゆる保護色なんだろう。早春に生まれた子はまだ冬の白い毛におおわれて、出会うと母の蔭にさっと寄りそい、つぶらな瞳でこちらを伺う。「悪いことをしたな」と思う。こっちが無断で彼らのテリトリーに侵入したのだから。

 ある時は森林限界の砂礫地の断崖を、真横に3〜400メートルほども猛スピードで駈けぬけるのを見た。ガラガラと音をたてて小石が崩れ落ち、遠目には狼が疾走しているかのように見えたが,私の手前50メートル程を横切り、反対側の丘に駆け上った。この時はおそらく何かに恐れて駆け出したのだろう。「カモシカのような足」。なるほど神々しい程に、そう思った。普段彼らはそんなに人間を恐れない。天然記念物で保護されている事を知ってか知らずか…ただ常に20メートル程の一定の距離を保って決して近づくことも無い。

 雪が止んだ朝、雪原に彼の足跡が無数に見られる。沢があれば、沢筋にそって足跡を追跡してみる。繰り返し浅瀬に下りてミズゴケなどを食しているのが覗える。雪に突き出た雑木の新芽や皮をかじった痕もある。あるいは新雪に大量のため糞。これはナワバリの意味もあるらしい。

 春が来て,夕方近く水芭蕉の咲く水辺に撮影に降りると、その傍らに横たわった死骸があった。背骨と頭部、蹄、体毛も残っていて、雪解けの水に濡れて光っていた。

 今年の冬は早くも豪雪になった。すでに町でも1メートル弱、山は2メートルはあるだろう。かってない記録破りの寒波が次々と来て、我ら人間にも、彼らにとっても厳しい冬になった。思えば昨秋はブナの実、ナナカマドの実など果実の大豊作の年だった。あるいは神は厳冬の年に備えて彼らに多くの食料を用意してあげたのか?そんな事があるかどうかは知らない。この異常気象や多くの災害が続く時代に、とにかく今、自然の中でカモシカが生きている。

 この冬、彼らの足跡を見つけたらちょっとだけでもいい、追跡してみませんか?

写真と文 山内晴也 
( ギャラリーのムジナもたまにお山へ帰る)


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