2年ほど前より、千葉県船橋市にある飲食店の壁面ギャラリーに拙い写真を提供している。春夏秋冬の季節毎に2枚、磐梯山周辺の自然を全紙大のプリントサイズで表現しなければならない。更にこの展示には依頼者より厄介な注文が付いていた。575…つまり、「俳句も読んで欲しい」と、いうものだ。
紅葉掌の 嬰児を祝う 山まつり
これは、紅葉を「お題」とした俳句の会に裏磐梯を案内した折、勧められて詠んだ句である。私の娘が生まれる少し前の頃だった為か、山の楓達が手を振って歓迎している様に思えたのだ。後にも先にもこれ一度きりの俳句経験だったが、今回は引き受ける事にした。足りない写真技術を575が補ってくれることに期待したのである。以来、時間を都合しては磐梯山周辺を駆け回わり、捻り出すように撮影した作品から更に文章を捻り出すのがライフワークになりつつある。
春、桧原湖畔では雪解けを待ちかねた様に芽吹きが始まり、黄緑の山裾をピンクの刷毛で落書きした如き山桜の開花が見事だったので思わず、カメラのシャッターと心のシャッターを押す。
薄墨が 水面を染める 山桜
夏の中瀬沼からの眺めは緑一色である。最近は沼にも水草が増えてきたようだ。
八百万 神の庭にぞ 遊びけり
詠んでから季語の無いのに気付いた。改句をいろいろと考えたが、しっくりと来ないので「季語は写真の中に有り!」と誤魔化す事にする。
1月、猛吹雪の中、早朝より桧原湖上に置いた小屋でワカサギの穴釣りをしていた。入れ食い状態が途切れた時、ふと、明るいので外に出てみると雪も風も止んで、東へ遠ざかった雪雲の中から太陽が顔を覗かせていた。
旭日が 雪の幕間を 塗り替える
写真・文 木村郁夫
( 裏磐梯の文豪・・・でなく酒豪。)
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